虚無主義対愛の拳…しかし

 クレーター内で殴りあうアンダーソン君、スミスの両者。そして、アンダーソン君の鋭い拳がマトリックスコードを模した変な雨粒を弾きながら超高速で迫り、スミスの左頬に入る。

 これはとても高度なCGシーンなのだが、何か違和感が。
 殴り合いによって水滴が四方八方に飛び散り、CGに入った時点でスミスの視線がそれ、誰も居ない空中を見ている。
 このCG直前の実写殴り合い部分に、「視線がそれるきっかけ」らしきものがまるでないのが気になる。
 そしてCG前後の実写殴り合いは、信じられないほどダセェ!!ほかの殴り合いと比較して欲しい。これは急造であろうと確信しているシーンである。

 こうは考えられないだろうか。本来はもっと面白い格闘の流れからあのCGに入る予定であった。何かの拍子にスミスの視線がそれる。あるいは、それたうちには入らない一瞬の出来事かもしれない。とにかくそこでCGに入る。
 そしてCGに入ってからが凄い。アンダーソン君は時間の流れを完全に超越して動いていたのではないか。わたしは、周囲の雨粒や真面目に戦っていた筈のスミスがまるで動いていない事から、これで合っていると確信している。
 アンダーソン君は静止しているスミスを捉え、普通ないくらい深く踏み込んでのフックを浴びせた。アンダーソン君が深く踏み込んだために、両者はちょい変な位置関係になっていた。
 往年のテレビアニメ「恐竜惑星」では、「時間の流れをあんまり遅くすると、周りの空気やら何やらも動き難くなり、飴のようになってしまう」という描写があった。一方レボリューションズのこのシーンでは、アンダーソン君の拳は雨粒を分解しながら進み、失速することなくスミスにぶち当たっている。 時を止めたと言うより、時の外、漫画で言う「コマの外」、マトリックスの支配から完全に外にいたのだろう、アンダーソン君は。すごい男だ。
 そしてこのアンダーソン君の拳で決着がつく筈だった。…どうだろうか。

 しかし、実際の映画の中ではそんな大変な一撃とはなっていない。これは…やはりマト製作サイドが、急に勝負の流れを変えてしまったのではないか。前後のボケた殴り合いは、ふたりの立ち位置だけ合わせて大慌てで撮ったものではあるまいか。

 そもそもあの拳は、「あの拳を受けて歪んだスミスの顔」が模られたメダルが記念品として出回った事からも言える様に、重要な一撃であるべき筈だ。

 そんなパンチが、実際の映画の中ではあまり意味を感じられないパンチになっているというのはおかしい。
 「あの拳がコードをかたどった変な雨粒を弾いている時点で、アンダーソン君がコンピュータの支配を超えたという意味の映像になっているからいいのだ。決着のつけ方があれなのは、アンダーソン君が平和を求めるという最善の選択をしたから。」と世間では言われているが、わかりにくすぎる。

 CG直後の実写場面はCGで強調された一撃と良く似た右が3、4回繰り返して映されている。しかしこの実写映像では、雨粒は普通の速度で落ちている。 これは、先のCGの印象をぼかしてしまうものである。

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